ネタバレ注意 映画「聲の形」感想 その2 小6編

続きまして、聲の形感想その2です(´_ゝ`)
その1を読んでない方はまずそちらからお読み下さい。
ネタバレ注意 映画「聲の形」感想 その1 - つくってあそぼ


硝子のコミュニケーション不全とメンタリティの土台についてざっと話しましたが、
その2は「どうして硝子は他者とのコミュニケーションを続けようとしたのか」から。

小6時代の硝子は、まず筆談ノートで他者とのコミュニケーションを取ろうとしました。
声でコミュニケーションを取るのが難しいのは分かるかと思います。

終盤の硝子の夢(回想シーン)にありましたが、周りのみんなが硝子と同じような「声」で話しかけ、それに硝子も普通に聞こえているように答えるという、あのIfシーンです。
硝子にとってはあれが「自分が健常者だったとしたら」の世界です。

さて、もし自分があのシーンと同じように他人の声が聞こえるようになったとしたら、
お互いにストレスなく会話ができる自信のある方はどれほどいるでしょうか。

もちろん硝子の世界とイコールではありません。
(理想の世界なので実際はもっときつい)
硝子にとって声でコミュニケーションを取るということは、つまりはそういうことです。

そこで代理手段としての筆談が出てくるわけですが、
気づいた方もいるとは思いますが、実は硝子はそれ以前に一度(ないし何度か)失敗しています。

小6で転校してきたということは、当然それまでは別の学校で生活していたわけです。
そして、あの真新しい筆談ノートを見せるということは、それまでは筆談でのコミュニケーションはメインではなかったのでしょう。
以前から筆談も併用していたのでしょうが、できるだけ音声での会話をしようとしていたものと思います。

前の小学校で何が起きたのかは想像するしかありませんが、
おそらく作中と似たようなことが起きたのでしょう。
それまで使っていた、声でのコミュニケーションを諦めてしまう程度のことが起きたのでしょう。

声での意思疎通は無理だけれど、筆談ならまだマシ。
これでダメなら、普通の教室で一緒に生活することは無理だ、という点も含めての選択です。
(映画では明言されてなかったと思いますが、ろう教室がある学校なので転校してきたとの設定があります)

先ほど、硝子視点での声の世界について触れました。
健常者であればあの環境で会話をするのは非常に困難ですが、
硝子にとっては「あれが普通で当たり前のこと」なので、
あれで会話することはできないことではありません。

ただ、作中でもそうですが、100%完全に聞き取れるわけではありません。
(単語の読解もそうですが、そもそも音がいつもクリアに聞こえているわけではない)
会話が分からないから聞き返すケースが相当起こるでしょう。
そして、聞き返すたびにそれまでの会話のテンポが完全に崩れます。映画でも何度かありましたね。

ここで問題なのは「聞き返す硝子の言葉が相手に伝わらない」ケースです。

-`).。oO(よく分からないけど、急に何を言ってるのこの子…)

こんな状況が日常のあちこちで起こるわけです。
そういう空気の変化は「言葉に出さなくても」非常に良く伝わります。

硝子としても、その場の空気や会話の流れを崩したいわけではありません。
だからといって、何を話しているか分からないまま何となく合わせるだけ、ということも難しい。
流しても問題ない会話と分かれば相槌を打っているだけで良いケースはありますが、
硝子にはまず「相槌を打って流していればいいのかどうか分からない」からです。
(そういう場合に硝子がどうすることにしたのかは、高校時代に入ってから少し触れます)


硝子が周囲の会話を聞き取ることは不可能ではない。
でも、硝子の声を周囲の人が聞き取るのは何かと問題が多い。

ではどうするか。

要するに、伝えたいことを「声を媒介として」伝えるところに問題があるわけです。
そこを、声ではなく文字で伝えれば、少なくとも内容の伝達ミスは格段に減ります。
もちろん会話のテンポは著しく落ちますが、それは声で会話する場合でも避けられません。
リスクとリターンを比べて筆談の方がマシだろう、という考えですね。

その辺のところは硝子も理解していて、筆談での会話も必要最小限に抑えています。
作中で硝子が筆談しようとしているシーン(メール除く)を数えてみれば分かると思います。

少し余談ですが、硝子はメールでは普通に会話ができています。
ツイッターやラインなどをやっていれば、そこでの会話は全くといっていいほど違和感はないでしょう。
音を介することにだけ障害があるだけで、それ以外は本当に普通の人と同じです。
むしろ、硝子の能力は障害を除けば平均値よりそこそこ優秀ではないかと思っています。

そういえば、全聾の人がツイッターを始めた際に、
「音の洪水という言葉がよくわからなかったけれど、ツイッターをやってみてこんな感じなのか、と初めて分かった気がする」
と話していたこともありました。もし興味があればそういうのを見てみるのも良いかと。


説明が長くなりましたが、そろそろ本題に戻りましょう。
硝子がこれまで何度も失敗してきて、それでもなぜ他者とのコミュニケーションを続けようとしたのか。
転校先には(母親から反対されていますが)ろう教室もあります。
わざわざ普通の教室で生活する必要はないです。
何より、硝子本人が転校先でも必死に努力して、今度こそ上手くやろうとしています。
補聴器を取り上げられて何個も壊されても、嫌がらせを受けても、まだコミュニケーションを取ろうとします。
(補聴器は1個20〜40万くらいします。障害者手帳持ってるはずなので補助ありますが)

自分なら補聴器を壊された時点で諦めるでしょう。
メガネを壊されて何も見えないくらいにきついし、金銭的にも無理がある。
(すぐに同じものを用意できるものでもないですし)

どうしてそこまでしてコミュニケーションを取ろうとするのか。

理由は色々考えられますが、その最後のところで硝子の気持ちを支えていたものは、
「みんなと話がしたいから」
ただこれだけなんだと思います。

どうやっても不完全な会話しかできない。
いや、不完全な会話しかできないからこそ、ただ話がしたかった。
そして、みんなと一緒にくだらないことで笑ったりしたかった。

ただ大好きで、でも自分の手からこぼれ落ちそうになっているからこそ、
どうしてもそれを手放したくはなかった。諦めたくなかった。

そうでなければ、石田たちに嫌がらせを受け続けても、友達になろうとはしないでしょう。
そう。いじめを止めさせるのではなく、友達になろうとしたのはそういうことです。

もちろんいじめを受けていることは硝子も分かっています。
おそらく前の学校でも受けていたから。それで転校したから。

でも、いじめを受けている状態で硝子と関係を持ってくれる人は、
佐原のようなごく一部の例外か、いじめている連中しかいません。

その他大勢は、分かっていても近づこうとはしないでしょう。
可哀想と思っても、自分が巻き込まれるのは御免です。

硝子としても、離れて見ているだけの人を巻き込むことはできません。
佐原が不登校になってしまった…いや、佐原を不登校にしてしまったのですから。

でも、まだ諦めたくない。まだ自分にできることはある。

すると、もう選択肢は一つしかありません。
いじめている連中と何とかして話をして、友達になる。

普通はそんなこと無理だと諦めるでしょう。
いじめっ子たちに徹底的にやり返して、いじめを止めさせる方がまだ簡単かも知れません。
(実際にいじめを受けたことのある人はやり返すか逃げるかを選ぶと思います)

ですが、仮に力づくでいじめを止めさせたとしましょう。
当然、それなりに大事になって学校側から厳重注意されることでしょう。
周りで見ていた同級生たちも、いじめの最中よりはマシになったとしても、
そんな問題児と何の心配もなく友達になれるかと言われれば、難しいでしょう。

硝子にとっては、いじめを止めさせることが目的ではないのです。
その先にあるものが重要で、それだけを求めていたのです。

それまで何があっても一言も漏らさなかった硝子が、弓弦に死にたいと漏らしてしまうまでは。

硝子もついに耐えられなくなって、いじめの件を学校に伝えます。
そして、それからは一転して、石田がいじめの対象になります。
そして硝子は、石田へのいじめをできる範囲で助けようとします。

ここで、よく誤解されると思いますが、この時点で硝子は石田のことを好きなわけではありません。
これまでいじめの中心人物だったのですから、むしろ嫌いなくらいでしょう。
原作では、取っ組み合いの喧嘩の直前に、無理して愛想笑いを浮かべるくらいです。

ただ、硝子から見ると石田がいじめを受けているのは「自分がいたせい」なのです。
事実かどうかはさておき、そう思っていることでしょう。
その辺りは前回話した通りです。
自分がいなければ起きていなかったこと。硝子はそう考えるのです。

その時の石田の助けになれるのは、いじめを受けていた硝子だけというのもあります。
(石田を助けたからといって硝子までいじめの対象にすれば、いじめている側からすれば藪蛇ですからね)
本当に石田を好きだったとすれば表立って止めていたかも知れませんが、陰ながらで止めていたのはそういうことでしょう。
自分のせいだとは思っても、そこから石田を助けるほどの力は硝子にはないし、わざわざいじめを受けていた以上の困難を背負うつもりはない。
単なる小6の女の子で、聖人でもヒーローでもないですから。

そんなことをつゆ知らず、石田は硝子に対してキレて、取っ組み合いの大喧嘩となります。
(公式設定集によると、これで硝子は石田のことが嫌いになったそうな。そりゃそうだ)
そして、硝子は「普通のコミュニケーション」を諦めて転校し、小6時代は幕を下ろします。


…うん。幼少時代の石田は本当にひどいヤツだな(´_ゝ`)(真顔)


ようやく幼少期が終わりました。
今後必要な部分はあらかた説明終わったので、ここからは早いと思います。思いたい(´_ゝ`)(願望)


では、その3は高校時代の二人の再会から。その前にチタン芯の通販を開始する予定(´_ゝ`)