ネタバレ注意 映画「聲の形」感想 その4 佐原・植野との再会編

字幕付き上映も見てきました。予想通り手話の説明はないです(´_ゝ`)(知ってた)
字幕自体は聞き取れてれば必要ないですが、2回目の視聴は細かいところの演出も分かるようになるので良いですよ。
自分は2回目を見て、硝子との再会シーンで硝子が逃げ出す直前、百面相のようにいくつもの表情をしてることに気づきました(遅)
あと、原作でも分からなかった花火シーンの意義にもようやくたどり着きました。
あのシーン、花火だったから自殺を決めたのね。詳しくはそこまでたどり着いたら書きます(´_ゝ`)


いつも通り、未読の方はその1〜3を読んでからの方が分かりやすいと思います。長文注意。

ネタバレ注意 映画「聲の形」感想 その1 - つくってあそぼ
ネタバレ注意 映画「聲の形」感想 その2 小6編 - つくってあそぼ
ネタバレ注意 映画「聲の形」感想 その3 石田と西宮の再会編 - つくってあそぼ


2回目を見ていくつか気づいたことがあるので、本編に入る前に軽くその辺を。

「石田に誰かが話しかけるシーンで、キャラの後ろ姿しか見えず表情などが分からない」
という場面が時々出てきます。
(明確にこうなっている最初のシーンは、再会した西宮と会話しているシーンですね)

これも原作とは意図的に変えてある部分です。
映画は基本的に石田視点でまとめてあるので「石田と向かい合っているのにわざと表情が見えない構図にしている」のはかなり不自然なのですが、
おそらくこれは「見ている石田が表情を読み取れていない(読み取りたくない?)」ことの表現なのかなと思います。
場面によって多少ニュアンスが変わりますが、単純に気づいていないか、正面から顔を見られない気持ちか、顔のバッテンをつけたくないけれどその表情を理解することを放棄している?、辺りですね。
なお、演出の性質上、植野の後ろ姿がかなり多いです。今回の感想でも出てきます。


そんなわけで、ここからが今回の本編。

前回は硝子と橋の上で再会、ノートを落として云々(ここ忘れてましたね。PVで何度も見たのに)を終えたところまで。
なお、川に落としたノートをまた石田が拾ってくれたことは、「自分が諦めたものを何度でも石田が拾い上げてくれる」ことの象徴になります。
これがあったからこそ、別れ際に本来の笑顔で「またね」と言ったのでしょう。
ノートを落とすのはこれで終わりですが、しばらく後で同じような象徴的なシーンが出てきます。

その後は、弓弦が飛び降り写真をネット公開、それが原因で硝子と喧嘩して飛び出して、公園の遊具の中で石田に発見されることになります。
原作と多少流れが違いますが、重要な会話の内容はおおむね同じです。

一つだけ明確に違うのは、雨の中を抜け出した弓弦を石田が追いかけたシーンで、傘で弓弦の姿を隠しながら話す場面があります。
原作だと正面切って話していますが、あえて映画でこのような描写になったのは、
先程の「石田と向かい合っているのにわざと表情が見えない構図になっている」の裏パターンです。

石田が弓弦に表情を見せたくなかったし、弓弦の顔も見られなかったのは分かると思います。
ただ、このシーンで「側面から二人を見ていた視点から、わざわざ石田主観の視点に移動した」のは、
(作品全体を通して)不自然に顔を隠す、顔を見せない演出にはこのような意図があると明示するためなのでしょう。

その後、弓弦が傘を押し上げると抵抗なく顔が見える、というのも細かいながら興味深い点です。
「隠しているものを見るのは、ちゃんと見ようとすれば難しいことではない」ことをを示しているのでしょう。
もっとも、かなり先までそのようなシーンはないのですが。ありのままを見るのって難しい。


さて、弓弦シーンが終わり、ここからは佐原との再会。
佐原は尺調整の関係でかなり出番を削られて悲しみを背負ったキャラの一人です。
佐原は、硝子にとっては石田における永束のような「良いヤツ」です。
それだけではなく、永束ともまた立ち位置が違うので、気になる人はぜひ原作をお読み下さい。

石田は永束と一緒に、橋の上で硝子・弓弦と合流。
携帯を入手したのを機に、硝子の連絡先を聞こうと「誰か連絡先を知りたい人はいる?」と遠回しに言う石田。
友達なので普通に聞けば教えてくれるはずですが、連絡先を知りたい人と聞かれたら、会うどころか連絡も取れないという意味で佐原を上げるのは無理もないでしょう。石田はこうして会えていますから。
ここで佐原が出てきたのは、小6時代のクラスメートの中では比較的話しやすいこともあるでしょう。
硝子へのいじめとは直接関係なく、不登校に追い込んでしまったことを謝る意味もあります。

もっとも、ここで石田から佐原の連絡先を聞けるとは思っていません。
小6時代に連絡先を交換しているとは思えませんし、不登校になってからはさらに連絡先を知る機会は少ない。
あくまで、あえて連絡先を知りたい人を上げれば…くらいの気持ちです。

石田は少しがっかりしつつも、硝子が知りたいならと川井から佐原が通っている高校を聞き出し、硝子と共に直接会いに行きます。

硝子としては、ふと思いついて言っただけのことで、佐原の近況が分かっただけでなく、石田が直接会いに行くとは思っていなかったでしょう。
他の友達に連絡先を聞くまではありえますが、自分が会いたいわけでもないのに連絡先を聞くためにわざわざ会いに行く、という展開はさすがに想定外です。
友達とはいえ、永束ほどのビッグフレンドとまではいっていませんから。
いくら何でも、自分は何もしていないのに石田にそこまでさせるわけにはいかず、結果として硝子は一緒についていくことになります。

余談ですが、細かいところで、原作では電車から降りた後に、スタスタ進んでいく石田を硝子が一生懸命追いかける場面があります。
個人的にですが、後のとあるシーンの対比として、ここのシーンが残ってたら…と少し思っています。
夏休み中のシーンなので、おそらく意識して見返せば分かるかと思います。その辺は後ほど。

映画ではそのようなシーンはなく、駅のホームから改札に向かうエスカレーターで佐原と再会となります。
そこから最初は3人で話をしていましたが、久しぶりの再会となる硝子と佐原が喋り続け、置いてけぼりを食った石田は適当な理由をつけてその場を離れます。
(この時点で、佐原は石田が硝子をいじめていたことを知りません。不登校後の話なので)


石田が1人であてもなく街をブラブラ歩いていると、とある交差点でチラシ配りをしている少女と再会します。
黒髪ロングのツンデレ暴走系少女、植野直花の再登場です。

ここでは、石田は思いもしない再会に焦っていますが、植野側は石田に気づかなかったようにチラシ配りをするだけで終わります。
植野も石田には気づいているのですが、バイト中なのとこちらも思いがけない再会で動転したのか、気づかなかったことにしようとスルーします。
「学校が違うとはいえ、街中でたまたま知り合いが通りかかることはある」
植野も昔を気に病んでいるとはいえ、こんな急な再会では色んな意味で気持ちの整理もできません。

さて、チラシを受け取った石田は、佐原と同じように植野も、硝子と仲良くやっていた時期のように友達になれないか、と考えます。
ですが、それはかなり難しい話でもあります。
硝子が転校してきた当初こそ色々と硝子の世話を焼いていた植野ですが、それと同時に硝子に対して一番苛烈な態度も表していたからです。

石田もきっと自分のことであれば諦めていたでしょう。
ですが、もしも上手くいけば硝子に「自分が壊した本来あるべき形」を少しでも取り戻せるかも知れない。
そして、自分だけで動く分には何か被害があっても自分だけで済む。
もし失敗して自分と植野との関係が悪くなっても、もうすでにかなり気まずい関係なのだから。


そんなわけで、石田は植野のバイト先と思われる猫カフェにやってきたのだった。
ここからしばらく、植野視点から再会シーンを話していきます。

バイト先に突然現れた石田。
たしかに気づかない振りでチラシは渡したけれど、昔を考えるとそれだけで来るとは考えづらい。
たまたまチラシを貰っただけで猫カフェに来るほどの猫好きとも考えにくい。

要するに、石田は自分に会うためにわざわざやってきたのだ。
どうして急に会いに来たのかは分からないけれど、昔の知り合いとはいえバイト中に客と仕事と関係ない話をするのはまずい。
(原作から推測するに、そういうところは真面目そうな印象。硝子の世話もそうだった)

一緒にいるヤツは知らないけれど、中学以降にできた友人だろう。
できれば石田とは一対一で話したい。バイト以外の時間で。

…よし。ここは気づかれないように髪型とか変えて誤魔化そう。

デザイン科の本領を発揮して?無事にその場をやり過ごした植野は、
後日改めて下校中の石田にアタックをかけます。

しかし、植野は小6以降の石田のことをほとんど知りません。

石田がバイト先にやってきた理由も気になるけれど、「その場にいなかった」のにそんな話をいきなり切り出すのは明らかにおかしい。
昔とどう変わっているのか。今自分のことをどう思っているのか。まずはそこから確認しよう。

そこで植野は、軽い雑談ののち急な再会で混乱する石田に対して
「私のこと、嫌い?」
と問いかけます。

全編を通して植野はこういう面で非常に鋭く、自分の目的を果たすのに最適な言葉を見事に使いこなします。

過去のことを考慮すれば、ここで急に「好き」と返ってくることはまずあり得ない。
ハッキリ「嫌い」と返ってくれば、小6時代の石田からあまり変わっていないと分かり、なおかつ「バイト先に来たのは石田以外の用件があった」のだと推測できる。
嫌いな人物にカネと時間を使ってまでわざわざ会いに来る性格ではない。
「どちらでもない」等の答えであれば、昔の石田とはどこか変わり、内容によって昔のことをどれだけ気にしているかも予想できる。

そして、いきなりこの話題を振ることで、石田の本音を引き出しやすい環境も作っています。
急なことがあると上手く取り繕えないところは、出会った時の動揺で確認済み。
もし返答に時間がかかるようなら、そこにも何らかの理由が隠されているはず。
そこからあとの情報は、そこを確認してから確認していけば良い。

感想その2にて、小6時代の硝子の人間観察能力の話をしましたが、
植野も負けず劣らず観察力などが高く、硝子よりもさらに一歩深く見抜いてくるタイプです。
しかも、硝子のように観察するだけで終わらず、どんどん前に踏み込んでくるところがあります。
この発言の後も、植野のそういう強引で一種冷徹ともいえる面が表現されています。

石田の「まぁ、別に、何とも…」という煮え切らない回答から、
後者の「どこか変わってしまった」「昔のことは気にしているけれど、それで自分を嫌いになった様子ではなさそう」と判断します。
まぁ、石田が変わったとすれば、十中八九昔のことの影響だろう。
そうなると問題は、何がどう影響しているのか。
自分がその影響の中心でないのなら、残りの候補はおのずと絞られてきます。

そう考えているところに、ふと前方を見るとあの西宮の姿が。
当然、西宮は影響元として一番あやしい候補。この都合の良い偶然を使わない手はない。

そこで植野は、軽くカマかけをします。
「あの当時の自分が話していたような雰囲気」で、現在の西宮を軽くけなします。

これで石田が乗ってくるようなら、西宮は対象から外れたことになるので、
当時のことを愚痴り合いながら少しずつ探っていけば良い。
それ以外の反応なら、おそらく西宮に関係するものと分かるので、どこを気にしているのか探りながら、場合によっては西宮本人も巻き込んで…といったところでしょうか。

ですが、運の悪い?ことに、石田がプレゼントした猫のポーチをけなしたことが、石田の地雷を踏みます。
もちろん一つの可能性としては考えたでしょうが、二人の過去から想像するに、石田が硝子にプレゼントすることも、硝子がそれを受け取って使うことも考えにくい。
少し嫌な予感を覚えながらも、「どちらであっても効果的」であるが故に言ってしまったのでしょう。

そして結果は、植野にとって悪い方に出ます。
ここでの石田の返答を聞いた時点で、おおよそのところは理解したことでしょう。

ここで止めていればまだ穏便に終わったところですが、
重要なことをこんな曖昧な状態で止められる植野ではありません。
止まれないならどうするか。当然前に出ます。
結果どうなるかは薄々理解しながらも。

そして植野はにこやかに西宮に近づき、不意をついて補聴器を奪います。
石田が硝子に代わっていじめを受ける原因となった補聴器の件。
あの事件を利用して石田の最もきつい記憶をえぐり、「石田がどこまで本気なのか」を確認しに行きます。

もちろん補聴器を本当に壊す気はありません。石田が自分からやるなら別ですが。
石田が西宮をどう思っていて何をしてきたのか。
それを知るために最も手っ取り早い方法を取ったのです。

この時点で、石田が西宮に補聴器を返すところまでは想定内。
ここで植野が急に笑い始めたのは、「石田の考える今の植野のイメージ」ならどういう行動を取るか、
その候補の中から「この後の展開を見て、演技だけでは誤魔化しきれない部分を誤魔化せそうな行動」として、あり得そうで石田に気づかれなさそうなものをチョイスした結果です。
西宮までごまかせるかどうかは未知数ですが、詳しい状況まではすぐに把握できないだろうと見越しての行動でもあります。
後から気づかれたとしても、「あの」西宮なら石田に全てを話すようなことはしないでしょう。


こうして植野は、半ば分かっていながら自分にとって最大級の地雷を踏んでしまいます。
西宮と和解しただけでなく、あの石田が「西宮のために手話を覚える」ほどに変わっていたのです。

この植野の爆笑シーンも、植野は後ろ姿のみで表情などは読み取れません。
ということは、石田には内心を悟られなかったということでしょう。
ただ、原作を見るまでもなく、このときの植野の様子が尋常ではないことは明白です。
(映画では明確に触れられていませんが、植野は小6の頃から石田のことが好きだったので、その気持ちは推して知るべし。詳しくは原作をお読み下さい)


台風のように全てをなぎ倒しながら植野が去ったあと、硝子は石田に「何を話していたの」と問いかけます。
植野が補聴器を持っていたので、硝子には会話が全く聞き取れない状態です。
補聴器を奪われたこと、それを石田に手渡していたことから昔のことが関係するのは連想できますが、
さすがにそれだけではあの異常な行動に説明がつきません。
おそらく「途中から泣いているのを無理やり誤魔化している」のも気づいたでしょう。

硝子としても、植野のことは「嫌いではないし自分を理解してくれる人かもしれない」し、
「何の意味もなくあんな行動を取るようには見えない」ので、
植野と石田の両方を心配してのことでしょう。

ですが、石田としても「西宮にしたいじめの話をしていた」とか「オレが西宮と無理して友達になったと思っている」なんてことを正直に話せる状態ではありません。
これは石田にしても禁忌の話題ですからね。
そんなわけで石田は何も話さずにごまかして帰宅します。

…こんな状況で、硝子が「そういうこと」だと気づかないほど鈍いはずがありません。

自分が起こしたことなのに、二人をフォローすらできない自分に自己嫌悪しながら、硝子の中にあるカウンターがまた一つ回るのでした。
(実際に硝子が起こしたかというと微妙ですが、詳しく聞けないのでそういうことにされます)


原作では、ここからまだ植野のターンが続きますが、その辺はカットされているので省略。
この後、色々問答したあとでもう一度石田に「わたしのこと嫌い?」と聞く時の植野は必見です。
こういうところの植野は本当に強いよ、うん(´_ゝ`)(植野のこういうところは好き。あと黒髪ロング)


というわけでその4はこの辺で。

映画だと、この直後に挟まる硝子の意味深なシーンがありますが、話の区切りとしては次に入れた方が収まりが良いので次回に(´_ゝ`)
一応原作もはない描写ですが、裏設定としてあったものを採用した形のようで。
(このあたりは公式ファンブック参照)


では、次回はポニテ硝子編。
映画版では表立って見えるほぼ唯一の恋愛要素です(´_ゝ`)
ポニテだけだと他より短いので、遊園地辺りまで入るかも。